建物(床)の傾きはどこまでが許容範囲?傾きが生まれる原因、補修方法について
建物の傾きは、作業者や居住者の平衡感覚を狂わせるだけでなく、機械の水平が確保できなくなる、窓や扉の開閉に支障をきたすなど、作業・居住環境の快適性や機能性、安全性を損なう大きな要因となります。
また、傾きが進行すると、建物の構造自体に大きな負荷がかかり、最悪の場合、建物の崩壊や倒壊につながる危険性もあります。
しかし、どの程度の傾きが許容範囲内で、どの時点で対策を講じるべきか判断に迷う方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、建物の傾きが発生する原因とその許容範囲、そして傾きの補修方法について解説します。
目次
建物の傾きとは?
建物(床)の傾きは、国土交通省H12年告示第1653号にて、構造体力上主要な部分の瑕疵(不具合・欠陥)について以下のように示しています。(木造・鉄骨造・RC造の住宅)
- 「3/1000未満の勾配の傾斜」は瑕疵が存する可能性が低い
- 「3/1000~6/1000の勾配の傾斜」は瑕疵が一定程度存する
- 「6/1000以上の勾配の傾斜」は瑕疵が存する可能性が高い
上記より、建物の傾き(床の傾斜)が6/1000以上である場合、瑕疵がある可能性が高く、建物の快適性や機能性、安全性に影響を与えることが考えられます。
この6/1000(0.6%)勾配とは、1000mm(1m)の距離ごとに6mm床が高く(低く)なっていることを示します。これは、住宅のバルコニーの勾配が2%(FRP防水の場合)、一般的な大きな駐車場のアスファルトの勾配が3%程度であることから考えると、非常に小さな勾配でも影響を及ぼすことがわかります。
このような傾きはいつから発生するのでしょうか。
建物が新築である場合、地盤調査を行い、適切な支持地盤を確認した上で、建物用途や躯体荷重などを踏まえて基礎の設計を行うため、建物の傾きはほぼない状態で施工されます。
しかし、地盤が軟弱地盤であったり、連続した粘土層、部分的な帯水層が確認されたりする場合には、建物の長期荷重により不同沈下や圧密沈下が発生する場合があり、長い年月をかけて少しずつ建物が傾いてしまいます。
よって築10数年を経過した建物は、上記の地盤沈下などにより傾きが生じている可能性があると考えられます。
建物(床)が傾いていると、建物本来の機能を失うほか、作業者や居住者の健康にも悪い影響を与える恐れがあります。
建物の傾きが発生する原因
では次に、建物(床)の傾きが発生する原因をご説明します。
地震による液状化
まずは、地震による液状化が代表的な建物の傾きが発生する原因としてあげられます。
液状化とは、地下水位が高く、水を多く含有した砂礫地盤などで地震が発生した場合、土粒子間の摩擦力が減少して、地盤全体が砂混じりの液体のような状態となり、地盤が沈下する現象です。
液状化で建物が沈下している場合は、地盤のせん断強度が低下している状態なので、その後の地震や余震で建物がより沈下しやすくなってしまいます。
軟弱地盤による不同沈下
次に軟弱地盤による不同沈下があげられます。
軟弱地盤とは、国土交通省北陸地方整備によると、
主として粘土やシルトのような微細な粒子に富んだ柔らかい土で、間隙の大きい有機質土又は泥炭、ゆるい砂などから成る土層によって構成され、地下水位が高く、盛土や構造物の安定・沈下に影響を与える恐れのある地盤
と定義されています。
上記より、建物が柔らかい地盤に建築されている場合や、時間の経過とともに土中の水分が抜けることで、建物の基礎が不均一(不同)に沈下し、傾きが発生してしまいます。
集中荷重による不同沈下
次に、建物の内部の集中荷重による不同沈下があげられます。
例えば、キュービクルや屋外空調機などの荷重が大きなものが偏って配置されている場合に、長期的に集中して負荷が地盤にかかり、建物が沈下し、床に傾きが生じる場合があります。
コンクリート床のクリープ現象
最後にコンクリート床自体のクリープが原因としてあげられます。(クリープとは、部材に荷重が作用し続ける場合、時間の経過と共に変形が増大する現象)
例えば、工場などで、コンクリート床にコンベアーやマシニングなどの荷重が非常に大きなものが作用し続けた場合、コンクリート床が荷重方向に変形し、コンクリート床が傾く現象が発生することがあります。
特に地中梁に囲まれたコンクリート床で発生しやすい現象と言われています。
建物の傾きの許容範囲:住宅
では、住宅における建物の傾きの許容範囲はどの程度なのでしょうか。
建物の傾きの瑕疵の範囲は、前述させていただきましたが国土交通省H12年告示第1653により決められています。
その中で、新築の場合で3/1000未満、中古住宅の場合で6/1000未満が許容範囲とされています。
また、令和3年3月内閣府(防災担当)災害に係る住家の被害認定基準運用指針被災者生活再建支援法によれば、外壁または柱の傾きが1/100(10/1000)以上1/60(17/1000)未満の勾配で半壊、1/60(17/1000)以上1/20(50/1000)未満の勾配で大規模半壊、1/20(50/1000)の勾配で全壊とされており、これらの傾きは被災していない場合の住宅でも非常に危険な勾配と言えるので、早急な対策が必要です。
建物の傾きの許容範囲:工場・倉庫・店舗など(非住宅)
次に、非住宅(住宅以外の用途)において、建物の傾きの許容範囲はどの程度なのでしょうか。
これについては、建築基準法告示や住宅の品質確保の促進等に関する法律において、非住宅の建物の傾きの許容範囲は明示されていません。
しかし、建築基準法の構造規定により建物用途ごとの積載荷重や構造計算の手法などが決められており、部材の変形が生じないような設計が求められています。
また、建築基礎構造設計指針により、液状化判定及び液状化への対応などの検討方針も決められているため、地盤の強度を踏まえた安全な設計が行われるようになっています。
アップコン工法による建物の傾きの補修の流れ
では、建物(床)の傾きが生じている場合には、どのように補修を行うのでしょうか。
傾きの補修にはその地盤に応じた多様な方法・工法がありますが、ここでは、弊社のアップコン工法によるコンクリート床の傾き修正の流れについてご紹介します。
傾き補修の流れ①:現地調査
アップコンでは、工場や倉庫、商業施設、店舗などの施設担当者様や所有者様などから、
- 機械や設備の水平が確保できない
- 台車やショッピングカートが勝手に動いてしまう
- 床の傾き・段差により従業員が安全に作業できない
などのご相談をいただきます。
そのようなご相談をいただいたら、まず、アップコンの技術スタッフが現地を訪問し、コンクリート床の沈下レベル測量や床下の空隙・空洞の状況を調査します。
傾き補修の流れ②:調査(現状把握)・補修計画の立案
調査結果をもとに、現状(建物床の構造、沈下量、部位、面積、空隙量)を把握した上で、最適な補修計画を立案します。
傾き補修の流れ③:補修工事の実施
アップコン工法による補修工事を行います。
【施工の流れ(アップコン工法/工場・倉庫・店舗の場合)】
- 施工プラント車配置・施工前測量・資機材の暖気運転
- ウレタン樹脂注入孔を削孔(直径約16mm)
- 床下へウレタン樹脂注入
- 穴埋、清掃・片付
アップコン工法では、傾きが生じたコンクリート床下と地盤の間の空隙部に対して、ウレタン樹脂を注入し、短時間で発泡する圧力を利用して、床を押し上げ傾きを修正します。
「アップコン工法」は、傾いたコンクリート床を解体して新たにコンクリート床を新設する「コンクリート打替え工法」と比較して、大規模な仮設工事や多様な工種を必要としないため、施工性に優れていると言えます。
(一般的なコンクリート打替え工法とアップコン工法を比較すると、工期を1/10程度に縮減できます)
「アップコン工法」で建物の傾きを改善
地震や地盤沈下による住宅や工場・倉庫・商業施設・店舗などの床の傾き・段差・空隙・空洞を、独自の硬質発泡ウレタン樹脂注入技術を使用して、住宅の場合は居住しながら、工場・倉庫・店舗の場合は操業を止めずに短工期で修正します。
施工においては、弊社で専門の教育を受け、経験を積んだ自社社員が修正計画の立案から工事、現場管理を行い、全工程を責任施工で実施します。
施工時はミリ単位で床レベルを管理しながら、硬質発泡ウレタン樹脂を注入するため、精度が高い高品質な施工を提供します。
詳しい施工の特長や施工の流れ、よくある質問などについては「アップコン工法とは」をご覧ください。
“ウレタン” で課題を解決するアップコン株式会社
私たちアップコンは、ウレタン樹脂を使用した沈下修正工事を行うことで、大量生産、大量消費を特徴としてきたこれまでの「フロー型社会」から、住宅や、道路・港湾・学校・農業用水路などの社会インフラを長寿命化させることによって、持続可能で豊かな社会を実現する「ストック型社会」の形成に貢献しています。
また、ウレタン樹脂の新規応用分野への研究開発に取り組むことで、自ら市場を創りながら事業を拡大しています。
「アップコン工法に適合する内容かわからない」「具体的な費用や工期が知りたい」「ウレタンでこんな施工ができないか」など、ご質問がございましたらぜひお気軽にご相談ください。