建物の傾きがもたらす健康被害と対処法|工場や倉庫、商業施設の安全のために
地盤沈下などによって建物に傾きが発生すると、扉や窓の開閉に不具合が確認されるだけではなく、めまいや吐き気などの健康被害が生じることがあります。
特に工場、倉庫、商業施設などの大規模な建物では、これらの健康被害が業務効率や安全性にも影響を及ぼすこともあります。
今回は、建物が傾くとどのような健康被害が生じるのか、また、その対策としておすすめする弊社のアップコン工法もあわせてご説明いたします。
目次
建物の傾きとは?
建物の傾きは、地震による地盤の変位や液状化、軟弱地盤による不同沈下などが生じ、建物の基礎の一部または全部が沈んでしまうことで生じます。
また、建物の一部に極端な長期荷重(集中荷重)が生じた場合や床スラブのクリープ現象によっても建物の傾きが生じるケースもあります。
特に住宅においては、国土交通省H12告示第1653号(以下、告示1653号)によって、新築の場合で3/1000以内、中古住宅の場合で6/1000以内が建物の傾きとしての許容範囲とされています。
また、被災者生活再建支援法によれば、床の傾きが1/100(10/1000)以上1/60(17/1000)未満勾配で半壊、1/60(17/1000)以上1/20(50/1000)勾配で大規模半壊、1/20(50/1000)以上勾配で全壊とされており、これらの傾きは被災していない場合の住宅でも非常に危険な勾配と言えるので、早急な対策が必要です。
建物の傾きが与える健康被害
まずは、建物(床)の傾き別に生じる健康被害について、建物(床)の傾きのレベルに沿ってご説明いたします。
なお、建物(床)の傾きとその瑕疵については告示1653号にて示されています。こちらの記事でご確認ください。
3/1000未満の傾きで生じる健康被害
3/1000未満の傾斜(1mにつき3mmの傾き)は、告示1653号において瑕疵が存する可能性が低いとされ、新築基準であっても問題ない傾きとされています。
3/1000未満の傾斜の床を裸足で歩いた場合、平衡感覚に敏感な方が違和感に気付く程度で、明らかな健康被害が生じる可能性は少ないとされています。
3/1000~6/1000の傾きで生じる健康被害
3/1000~6/1000の傾斜(1mにつき6mmの傾き)は、告示1653号において瑕疵が一定程度存するとされ、建物の在室者が床の傾きや不同沈下を意識すると言われています。
この傾きは平衡感覚が敏感でない方でも感じやすい勾配であり、日常生活において違和感をおぼえるものとなります。
しかし、この傾きの中でも明らかな健康被害が生じる可能性は少ないと考えられます。(個人差はあり、この段階で気分が悪くなったり、傾いている側に動いてしまう感覚が生じたりする場合もあります。)
8/1000の傾きで生じる健康被害
6/1000以上の傾斜(1mにつき6mmの傾き)は、告示1653号において瑕疵が存する可能性が高いとされています。
特に、8/1000勾配(1mにつき8mmの傾き)では、建物の多くの在室者が床の傾きや不同沈下を強く意識するようになり、日常生活に感覚的な不具合が生じ、苦情が発生するようになります。
1/100(10/1000)の傾きで生じる健康被害
建物の傾きが1/100(10/1000)(1mにつき10mmの傾き)となると、在室者の平衡感覚に大きく影響を及ぼし、めまいや頭痛を生じるようになります。
1/100(10/1000)勾配では、床の水が傾斜方向に流れる程度の傾きであり、歩いていてもかなりの違和感があります。
この傾きが生じた段階では、多くの在室者が生活できなくなり、床の傾きを修正する工事を行わざるを得ない状況と言えます。また、この傾きでは、建物の建具(鋼製建具や木製建具)は、開閉できないなどの不具合が生じ、機能面・安全面でも在室者の生活に大きな影響を及ぼすようになります。
1/60(17/1000)の傾きで生じる健康被害
建物の傾きが1/60(17/1000)(1mにつき17mmの傾き)となると、在室者の平衡感覚に大きく影響を及ぼし、頭重感や浮動感を訴える人が多くなります。
1/60(17/1000)は住宅やオフィスなどのバルコニー程度の勾配であり、高い側と低い側の高低差をかなり感じ、居住者に大きな健康被害を与える可能性があります。
この段階では、家具や什器などのキャスターが動いてしまう、建具(窓・扉)が開閉しにくくなる、気密性がなくなる、雨漏りがするなどの不具合が相次いで確認されるようになります。
1/60(17/1000)以上の傾きで生じる健康被害
建物が1/60(17/1000)以上の傾きとなると、深刻な健康被害が生じるようになります。
1/44(23/1000)程度で牽引感やふらふら感、1/30(33/1000)以上でめまいや頭痛、吐き気、食欲不振などの非常に重い症状が確認されます。
特に1/15(67/1000)~1/10(100/1000)の傾きとなると、強い牽引感や疲労感、睡眠障害が現れてしまい、正常な状態(不陸がない状態)でも、ものが歪んだり、傾いて見えることがあると言われています。
これらの傾きは在室者の健康面、建物の安全面で非常に深刻な問題であり、早急な対策が必要となります。
建物の傾きが与える被害【工場・倉庫、商業施設】
次に工場や倉庫、商業施設において、床の傾きが与える被害について具体的にあげていきます。
工場や倉庫の被害
工場や倉庫で働く人も同様に、前記した勾配が厳しくなるほどめまいや頭痛、吐き気が生じるようになります。
また、床の傾きや生じた高低差によって、棚の転倒、台車の移動、機械の故障・不具合・精度の低下、室内の動線の不具合などが生じ、在室者の安全性や機能性、工場の生産性、商品の品質などを著しく低下させる可能性があります。
そして、床の傾きはやがて床へのクラック(ひび割れ)を発生させます。建物の耐久性を低下させ、結果として改修サイクルを短期化させることにも繋がります。
店舗・商業施設の被害
店舗や商業施設でも、建物(床)が傾くと在室者に対してめまいや頭痛、吐き気などの健康被害が発生する可能性があります。特に、これらの施設では不特定多数の人々が利用するため、リスクがさらに大きくなります。
具体的には、陳列棚や商品ラックの傾きや崩落、階段やエレベーター、エスカレーターなどの垂直動線の故障が発生する可能性があります。これにより、著しい安全性の低下が生じるため、迅速な建物(床)の傾きの修正が求められます。
また、ショッピングカートが勝手に動いてしまい事故が生じたり、床でつまずくリスクが高まったりすることも。さらに防火区画や防煙区画の不備が生じることで、避難計画の安全性が確保できない状態になる恐れもあります。
建物の傾きが発生する原因
なぜ、健康被害をもたらすような傾きが建物に発生してしまうのでしょうか。その原因についてご説明します。
地震による液状化
原因の一つとして、まず地震による液状化があげられます。
(液状化:地下水位が高く、水を多く含有した砂質地盤などで地震が発生することによって土粒子間の摩擦力が減少。地盤全体が砂混じりの液体のような状態となり、地盤が沈下する現象のこと)
地震による液状化で建物が沈下している場合は、建物を支持する地盤のせん断強度が低下している状態なので、その後の地震や余震で建物がより沈下しやすくなってしまいます。
新築の場合、地盤調査で地下水位や水分を含む地層が確認される場合には、支持層までの杭の施工や地盤改良などの構造的な対応が必要となります。
軟弱地盤による不同沈下
次に軟弱地盤での不同沈下があげられます。
軟弱地盤とは、主に粘土やシルトのような微細な粒子に富んだ柔らかい土で、地下水位が高く、盛土や構造物の安定・沈下に影響を与える恐れのある地盤と定義されています。(国土交通省北陸地方整備局)
よって、建物が軟弱地盤に建っている場合、時間の経過とともに土中の水分が抜けて建物の基礎が不均一(不同)に沈下し、傾きが発生する可能性があります。不同沈下が発生しないようにするためには、建物の軽量化・偏荷重の改良や支持層までの基礎の計画、荷重を分散させる耐圧盤の計画などが必要です。
集中荷重による不同沈下
建物内部の集中荷重による不同沈下も大きな要因の一つです。これは主に、建物の用途や重い設備の配置計画によって引き起こされます。
例えば、建物の屋上に重い機器—例えばキュービクルや屋外空調機—が集中して配置されている場合、長期間にわたって地盤に対して偏った負荷がかかり、建物が沈下。その結果、床に傾きが生じることがあります。
同様に、事務所やデータセンターなどで、大型OA機器やサーバーなどの長期間にわたる荷重が特定のエリアに集中している場合、荷重を適切に分散させるための構造計画や基礎設計が必要です。このような配置計画により、建物の安定性を維持し、不同沈下のリスクを軽減することができます。
床スラブのクリープ現象
最後に床スラブ自体のクリープ現象が床の傾きの原因としてあげられます。
(クリープ現象:部材に荷重が作用し続ける場合、時間の経過と共に変形が増大する現象)
例えば、工場などでは重荷重の機械が多いため、床スラブにコンベアーやマシニングなどの非常に大きな荷重が作用し続けた場合、床スラブが荷重方向に変形し、床が傾く現象が発生することがあります。
建物の傾きで健康被害があるなら補修を
では、建物(床)の傾きで健康被害が生じている場合には、どのように補修を行うのでしょうか。
建物(床)の傾きの補修には、その傾きの程度や地盤を踏まえた慎重な構造検討を行うケースもありますが、ここではアップコン工法による傾き補修の流れについてご紹介します。
傾き補修の流れ①:現地調査
弊社アップコンでは、工場や倉庫、商業施設などの現場から、
「床の傾き・段差により従業員が安全に作業できない」
「棚が転倒する危険がある」
「台車が勝手に動いてしまう」
「気分が悪くなるなど、健康に支障が生じる」
などのご相談や補修の要望をいただいた場合、まず、弊社の技術スタッフが現地を訪問し、建物の傾きや沈下の状況を詳しく調査します。
床スラブ(構造部材)又は土間コンクリート(非構造部材)に対してオートレベルを使用して、傾斜や沈下の度合いなどを正確に把握します。
傾き補修の流れ②:調査結果の分析・計画の立案
次に調査結果や既存図をもとに、建物の傾きの原因やその範囲を分析します。その際、地盤の状況や建物の構造を考慮し、最適な補修計画を検討します。
そして分析結果に基づき、具体的な補修計画を立案し、補修に必要な材料の量やアップコン工法の作業手順などを詳細に計画。お客様に施工内容について分かりやすくご説明します。
傾き補修の流れ③:補修工事の実施
アップコン工法を用いて補修工事を行います。以下は、具体的な手順です。
【施工の流れ(アップコン工法/工場・倉庫・店舗の場合)】
1.施工プラント車配置・施工前測量・構造図確認
2.ウレタン樹脂注入孔削孔(直径約16mm)
3.ウレタン樹脂注入
4.穴埋、清掃・片付
アップコン工法では、傾きが生じた土間コンクリート床下の地盤に対してウレタン樹脂を注入し、短時間で発泡する圧力を利用して、コンクリート床を押し上げて傾きを修正していきます。
この工法は、傾いたコンクリート床を解体して新たに新設する場合と比較して、大規模な仮設工事や多様な工種を必要としないため、施工性・経済性にも優れていると言えます。
(一般的なコンクリート床スラブの打替え工法とアップコン工法を比較すると、工期を1/10程度に縮減できます※)
※施工面積や沈下状況などによる
建物の傾きによる健康被害はアップコン工法で改善
建物(床)の傾きはその勾配(程度)によって、深刻な健康被害を引き起こす可能性があります。
日常生活の中で床の傾きを感じた場合や、窓や扉の開閉に不具合を感じた場合は、まずは弊社までお気軽にご相談くださいませ。
私たちアップコン独自のアップコン工法によって地震や地盤沈下による工場・倉庫・商業施設・店舗・住宅、事務所などの床の傾き・段差・空隙・空洞を、硬質発泡ウレタン樹脂を使用して、業務を止めることなく短工期で修正します。
大規模な機械や設備を移動せずに施工が可能で、操業・営業を止めずに沈下修正が可能なため、工場や倉庫、商業施設・店舗に最適な工法です。
施工においては、ミリ単位で床レベル(傾き)を管理しながら、硬質発泡ウレタン樹脂を注入していき、精度が高い高品質な施工を提供します。弊社で専門の教育を受け、経験を積んだ自社社員が修正計画の立案から工事、現場管理を行い、全工程を責任施工で実施します。
詳しい施工の特長や施工の流れ、よくある質問などについては「アップコン工法とは」をご覧ください。
“ウレタン” で課題を解決するアップコン株式会社
私たちアップコンは、ウレタン樹脂を使用して工場・倉庫・商業施設・一般住宅などの沈下修正をおこなうこと、道路・空港・港湾・学校・農業用水路などの公共インフラの長寿命化をおこなうことで暮らしやすい社会とストック型社会へ貢献します。
また、ウレタン樹脂の新規応用分野への研究開発に取り組むことで、自ら市場を創りながら事業を拡大していきます。
「アップコン工法に適合する内容かわからない」「具体的な費用や工期が知りたい」「ウレタンでこんな施工ができないか」など、ご質問がございましたらぜひお気軽にご相談ください。